これからの放射線診療体制、医療政策を考える 星 北斗先生(福島県医師会副会長、星総合病院理事長)との対談
第1回 「画像診断管理加算」の事始め
井田:本日は福島県医師会の副会長の星北斗先生をお招きして、「これから放射線診療体制のありかたについて」対談していきたいと思います。
星先生は現在、福島県郡山市の星総合病院の理事長であられますが、1989年から1997年の8 年間は厚生労働省勤務のご経歴があり、当時、医系技官として画像診断管理加算の新設にご尽力いただいた経緯があります。
私たち臨床医にとって、医療政策や医療経済の話題は診療報酬制度、すなわち「ファイナンス」の側面が中心となる傾向にあります。結果として医療制度の本質である「デリバリー」の部分まではなかなか系統的な議論が進みません。当然ながら医療政策の実施に際して「ファイナンス」と「デリバリー」は密接に関連しています。
日本医学放射線学会(JRS)や日本放射線科専門医会・医会(JCR)は我々の理想とする放射線診療体制、たとえば専門医と高額医療機器の集中配置と有効利用という「デリバリー」を実効させるべく、画像診断管理加算の算定要件を精緻化するという「ファイナンス」面での改定を要望し、実現してきました。しかし、質の高い放射線医療を、限られた財源の中で(可能な限り最小の費用で)、すべての国民が平等に享受できる(放射線科医を増やし偏在是正する)という大局的、長期にわたる「デリバリー」に関しては、みんなそれぞれ自分の立場からの考えがあっても、日本全体としてどうしたらいいか策や答えを見いだせないでいます。
公益財団法人星総合病院理事長
医師(平成元年3 月 東邦大学医学部卒業)
公立大学法人福島県医科大学大学院医学研究科(公衆衛生学講座)同校学位(博士)取得
平成元年4 月厚生省医系技官として採用後、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員等を経て、平成10 年財団法人星総合病院副理事長、平成20 年同理事長に就任。
東邦大学医学部客員教授、福島県立医科大学臨床教授、日本看護学校協議会副会長、公益社団法人全日本病院協会理事、一般社団法人福島県医師会参与、公益社団法人日本医師会参与などを歴任。
ご存じのごとく、明治以来の日本の診療体制の特徴は①自由開業制と②フリーアクセスであり、医療施設の運営母体は官立よりも民間の割合が多いにもかかわらず、診療体制や診療報酬は、国民皆保険制度のもと、国家(内閣や厚生労働省)が決めている。
今日、ここに医系技官のご経験もありなおかつ現在、地域中核の民間病院の理事長もされている先生のお話を伺えることは、これからの放射線科の診療体制、医療政策を考える上で、いい機会になると思います。ご出席の皆様、よろしくお願いいたします。
山田:まず初めに、星先生は厚労省の医系技官になられた経緯を伺ってもよろしいでしょうか?
星:本日はこのような機会にお招きいただき、ありがとうございます。とにかく、厚労省に入った理由は非常に簡単で、昭和62 〜3 年ころ、「診療報酬を上げてもお医者さんの奥さんの毛皮になるだけだ」と揶揄された時代ですよ、私の両親も医師ですから、日々診療で大変な努力をしているのをみているのに、どうしてこんなふうに誤解された言われかたをされるのかと。これじゃ駄目で、国民のためのしっかりとした医療体制を構築し、次世代つながる高い意識を持った医者を育てていくことが必要で、これらは医師自身であるわれわれがやるべき仕事だと、まだ卒業して間もなかったのですが、とにかく医師である自身の力で「未来の医療をつくっていきたい」みたいなことを生意気にも思って(笑)、厚生労働省に入ったんですよ。
山田:厚労省の医系技官になられて、放射線診療の問題にも関わるようになったきっかけは?
星:厚労省に入って1993 年頃だったと思うのですが、 1つはインフォームドコンセント、もう1つの僕のメインだったのが「医療放射線の管理をどうするのか」という課題でして、放射線治療装置における科学技術庁(当時)との二重規制という問題などを担当しているうちに、「何で放射線の先生たちがこんなに元気がないんだろう」と感じたのです。そこで当時、順天堂大学の片山仁先生や藤田保健衛生大学の古賀佑彦先生、東京大学の佐々木康人先生に夜な夜な集まっていただいて、山の上ホテルの会議室を借りて、そこで何回ぐらいやりましたかね、ずいぶん長いこと議論をして、実際には「医療放射線管理」の話もさることながら、「日本の放射線科の診療をどうやったら欧米並みにできるか」というテーマを議論しました。米国からみて、日本の放射線診療の質が低いという訳ではない、ただとにかく、放射線科医が少ない、当時、日本では病理医や麻酔科医、そして放射線科医というのは圧倒的に比率として低い。その一方で放射線診断機器、特にCTなんかは、フランスが6 , 000 万人か7 , 000 万人で200 台のときに、日本は1 億2 , 000 万人で1 万台あったんですね。 50 倍か。人口で割っても25 倍あるわけです。フランスで200 台で、何で日本にこんなにあるんだと。こんな体制下で、CTがきちんと読影、診断さている訳がない。きちんと診断されているのは、CT 検査の一角で、それは日本の国民のためにならない。
山田:私が以前、JCR で集計したデータでも、日本は人口あたりのCT導入台数が米国を抜いて圧倒的に多いにもかかわらず、人口あたりの放射線科医は先進国の中でもっと少ない(図1)。日本は医師の技術(ソフト)よりも機械(ハード)への資本投入が優先されてきた。
星:機器が先にありきでは、無駄に放射線を浴びるわけだし、下手すれば20ミリシーベルトぐらい浴びるわけですからね。医療被曝管理では1ミリシーベルトどうするかって喧々諤々やっているのに、きちんと正当化されていない、読影もされていないような画像をどんどん撮っている国って一体どうなんだと。隣の病院で買ったから自分の病院もCTを買う、これで嬉々としているのは機械メーカーだけで、それも外国のメーカーですよ。その後、米国に留学したときに、たくさんの病理や放射線科の先生をたずね、米国の診療体制をみて、確信しました。
きちんと検査の正当化、プロトコールの最適化が管理され、専門的に読影、画像診断ができる体制、この二つが必要であると。しかし、日本では放射線科医の数があまりにも少ない。正当化と最適化、専門的な診断の2つをしっかりとやったところに診療報酬としてインセンティブを付けることで、結果として放射線診断専門医のきちんと育成されることを。ですから、「画像診断管理」には専門的な読影だけでなく、被曝や放射線機器の管理もきちんとすることが含まれているんです。
山田:単に読影するだけでなく、検査前から依頼科任せにせず、放射線科医が検査目的や臨床経過を確認し、適応やプロトコールを決めないと、不十分な検査や無駄な頻回撮像になりかねない。
井田:放射線技師だけでは、依頼医のいいなりで、プロトコールの適正化や被曝の低減、頻回検査の抑制はできない。
大西:放射線治療専門医の立場からも、放射線治療の適応を判断する上で、必要十分な検査プロトコールとsubspecialty に特化した専門性の高い読影が求められます。とくに紹介患者で、前医での画像検査プロトコールが適切でないと大学病院で、再度検査をしなくてはならいことがあります。
星:専門医に管理されていないと、結局、不十分な検査で終わってしまって、紹介先で、CTを繰り返し撮像することになる。しっかりと管理されている画像で、かつ正当化とか被曝低減策とかそういう話をきちんとやった上で、読影をするというのをセットにして、その後もう1回撮り直そうなんていうインセンティブが働らかないようにする必要がある、それが「画像診断管理加算、月1回算定」であります。当時、保険局医療課で「こういうことがまかり通っているわが国の放射線診療、画像診断の領域はおかしい」と主張して、認めてもらったのが「画像診断管理加算」の始まりです。無駄な重複検査が減る、患者さんの被曝も減る、診断価値が上がる、機器のきちんとした管理もなされる、施設基準もある、と説明して、それで医療課のみんなが納得してくれて、「画像診断管理加算」ができたんですね。ただ最初は点数が低かったので…。最初は放射線科の先生方にすごく喜んでくれたんですけど、でも「安いな」と言われて(汗)。しかし最初から、200点、500 点と言ったら中医協を通らないので。
水沼:1996 年改定から新設されて、最初は一律36点でした。その後、45 点、48 点と順次増点されましたが、ドクターフィーとしては、とても十分とはいえませんでした。それでも私が保険委員のとき(2008 年)に算定要件など付け加えた要望が通り、管理加算1が70点、加算2が180点に増点になり、今の体制につながっています。
星:これからは放射線科の先生方にはプロフェッショナルとして「画像診断管理」を育ててくださいとお願いしたい、医療技術は日々進歩しているし、診療体制も時代とともに変わってゆきます。それにあわせて算定要件を精緻化し、医療の質の向上、医療費の費用対効果の改善、医療安全への貢献を立証した上で、もっと点数の高いものに順次育てていってくださいと。逆に言うと、これで「放射線科医がある種のステータスを得た」みたいなことに甘んじると、この点数はあっという間に無くなりますよと。だから、そこは先生方も気を付けて、次世代の先生方にバトンを渡していってください。
山田:星先生、「画像診断管理加算」の経緯について、貴重なお話をありがとうございます。私たちが社会医学活動を関わるずっと以前から、先生には放射線診療のことを憂慮していていただいたことに感謝します。ここで、少し休憩して、次に日本の医療がかかえる問題点などを議論していきたいと思います。
(第2 回につづく…)