核医学のご紹介

 核医学とは、放射線医学のなかでも特に「放射性同位元素(ラジオアイソトープ:以下RI)を医療に応用する分野」と定義されます。現在は9割以上がPET検査やSPECT検査など、RIを画像診断に用いるものが主流なので、核医学は放射線診断の一部に組み込まれている施設が多いようです。しかしRIを投与してがんやその他の治療に用いる「内用療法」も近年注目されています。

現在主な画像診断は超音波検査やX線CT、MRI検査などです。これらの画像からは人体の解剖学的情報や病変の形態に関するさまざまな情報を得ることが出来ます。例えればこれらの画像は肉眼病理を非侵襲的に体外から可視化するものと言えるでしょう。

一方核医学はRIを「トレーサー」として用い、これを画像化します。トレーサーで画像化できるものは肉眼で見えるものだけではありません。たとえば血液や酸素にRIを標識すれば、これらの生理学的な動態を画像化・解析することが出来ます。さらには細胞の受容体やブドウ糖・アミノ酸の代謝など、生物(あるいは細胞)の生化学的な活動も非侵襲的に画像化することも出来ます。つまり核医学検査は生体の生物現象を画像化するものといえます。これは核医学検査の大きな特徴であり、RIに様々な化合物を標識すれば無限のトレーサー(最近ではプローブとも呼びます)を開発でき、生物現象を可視化できることになります。近年の分子生物学的手法の発達により様々な病態の生理・生化学的事象が明らかになりました。多くの治療薬が開発されているのと同様に今後は核医学的手法を用いた診断薬も多く開発されていくものと思われます。

一方でRIは取り扱いが難しく法的な規制も多くあります。従って放射線科の中でも特に核医学は特殊な知識や、時には資格が要求される分野です。それだけ専門性の高い領域で重要ですが、人員は常に不足しています。ぜひ生体の機能画像に興味のある方は核医学を目指して下さい。


最後に核医学でなければ異常を特定できなかった2つの症例をお見せしましょう。

症例1は呼吸困難で来院した方です。胸部CTではほとんど異常がありませんが、PETでは両肺野の背側優位に淡いびまん性の集積があります。
本例はIVL(血管内リンパ腫)の画像です。血管内腔にびまん性にリンパ腫細胞が浸潤しているので腫瘤を作らず、CTでは指摘が難しいのです。しかしリンパ腫細胞の糖代謝が亢進しているので、FDG-PETでは明瞭な集積が認められます。
症例2は左右どちらも認知機能正常の方で、MRI上も異常がありませんでした。しかしアミロイドイメージングでは左に比べて右の画像では灰白質の集積が明らかに亢進しており、アミロイドが脳内に沈着している事を表しています。右の方は今後アルツハイマー型認知症になるリスクが高いといえます。

慶應義塾大学 放射線診断科核医学部門  村上康二