AI(人工知能)時代における放射線科の役割 

先日、学生から次のような質問を受けました。「放射線科医と病理医の仕事は、将来人工知能(Artificial Intelligence:AI)にとって替わられるから、なるのはやめたほうがいいと言われたのですが、本当でしょうか?」

昨今、メディアによって「医療へのAIの導入により、放射線科医が不要になる」などといった報道がなされています。このような誤った認識は、コンピューター科学の大家であるGeoffrey E. Hintonが2016年に「人工知能のほうが放射線科医よりも賢くなるので、放射線科医の無駄な教育はやめたほうがいい」と発言したことに端を発しています。その後、米国では多くの分野を巻き込んだ論争が起こりました。

近年の、AIを中心としたICT (Information and Communication Technology) 技術の進歩の速さには目を見張るものがあります。多様な分野でのAIの応用は、技術ニュースの中心的トピックとなり、医学もその例外ではありません。

AIの主流であるConvolutional Neural Network (CNN) は、画像診断と親和性が高く、今後、画像診断の臨床医療に広く導入されることになるでしょう。しかし、それによって本当に「放射線科医の仕事がなくなる」といえるのでしょうか?

確かに、「結節を同定する」といった比較的単純な画像判別に関しては、AIが現在の放射線科医の業務を置換していくことになるでしょう。しかし、放射線科医の仕事はそのように単純な画像判別だけではありません。画像の背景にある臨床的素因を考慮しつつ、患者本位の臨床医療のプロセスを検討することにあります。また、画像診断チームのとりまとめ役としてメディカルスタッフと共同し、画像診断の質の担保に努めることも、重要なミッションであるといえます。日進月歩の撮影技術を臨床へと応用し、新たな撮影方法を生み出したり、新しい画像評価の方法を日々検討したりすることは、AIには実装できません。

放射線科医はCT/MRI等のモダリティなど、最新技術に触れながら日々仕事をしており、医療従事者の中でもAI技術と最も親和性が高いところで診療を行っています。今後、医療へのAIの導入に当たり、その有用性・妥当性を評価する中心的な役割を担っていくことは間違いありません。

先のHinton氏の発言前後、米国では放射線科志願者が一時的に、急激に落ち込みました。しかし、北米放射線学会(世界で最も大規模な放射線学会)で「放射線科こそが医療へのAI導入の先進的・中心的役割を果たすのだ」という姿勢が示されると、これ以降、AIに興味のある医療者はむしろ放射線科を志願する、という全く逆の流れとなっています。

われわれ医師が積極的に研究・開発に関与して、AI開発の方向性を臨床医療の現場に適合するようコントロールしていかなければなりません。最先端のAI技術に最も近い放射線科医こそがAI技術を有用に使いこなし、臨床に根ざしたAIの適応を生み出していくはずです。将来の放射線科医は、他科と連携しながら、AI技術と臨床医療をつなぐハブとして、医療の重要な役割を担っていくことになると考えます。

東北大学医学系研究科 画像診断学分野
植田 琢也