1.【症状がない場合、CT検査の対象とならない】
2月19日発表のRadiology論文の解説
2.【発症早期においてCT検査のみで診断可能とは言いにくい】
2月20日発表のRadiology論文の解説
3.【CT室における感染防御】
3月18日発表のJapanese Journal of Radiology論文の解説
4.【ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例のCT所見】
3月18日発表のRadiology: Cardiothoracic Imaging論文の解説
1.【症状がない場合、CT検査の対象とならない】
2月19日発表のRadiology論文の解説
放射線医学の領域では最も権威のある雑誌の一つである Radiology から以下の論文が発表されました。
この論文の簡単な解説を記します。
出典:https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020200432 (Published Online: Feb 19 2020)
論旨:ハイリスク患者ではCTによるウイルス性肺炎の検出がPCRの陽性化に先んじる場合がある。
これは中国国内で発生した新型コロナウイルスの症例をまとめて投稿された論文です。
上記の論旨だけを読むと「とにかくCTを撮影しておいた方が安全!」という思考に陥りがちですが,これは科学的見地から全く見当違いですので以下にそれを簡単に説明します。
すなわち本検討は以下の重要な特徴を有します。
- 中国の流行地における検討である
- 症状があり感染が濃厚な「ハイリスク患者」を対象としている
他方,日本は流行地とはいえません。
従って,
- 無症状の患者はCT検査の対象とならない
- 有症状であってもCTの適応については症例毎に慎重な検討が必要である
- PCR検査が陰性でも専門家が「臨床的ないし疫学的に新型コロナウイルス感染が濃厚」と判断した場合はCT検査が有効でありえる
掲載(更新)日時:2020年2月21日13時00分
2.【発症早期においてCT検査のみで診断可能とは言いにくい】
2月20日発表のRadiology論文の解説
題名:Chest CT Findings in Coronavirus Disease-19 (COVID-19): Relationship to Duration of Infection.
出典:Radiology. 2020;200463. https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020200463 (Published Online: Feb 20 2020)
要旨:COVID-19感染症の発症早期(発症後0-2日)の胸部CTは,56%の患者で正常範囲内であった.少なくとも発症早期においてCT検査のみで診断可能とは言いにくい.
これは,中国国内で発生した新型コロナウィルス感染症にかかった症状のある121名の症例をまとめて投稿された論文です.現在の国内の状況(流行地域ではない)とは異なる地域の研究結果になります.
発症早期(発症後0-2>日)のウィルス感染の診断能: PCR法97% CT検査 44%
先に,同じ雑誌であるRadiologyに「ウイルス性肺炎の検出がPCRの陽性化に先んじる場合がある」ということが報告されました.
一見,結果が異なるように見受けられます.これには以下の様々な要因があると考えられます。
- 同じ中国の国内であっても報告した施設が異なり,患者の母集団が異なる
- 検査のタイミング,方法などが異なる
- 異常と判断されたCT所見が必ずしも同じ規準で行われたのでない可能性がある
諸記事に「新型コロナウィルス肺炎の診断にはCTが有効である」といった内容が記載され,報道されておりますが,あくまでも,CT検査は,専門家が診断を進めていく過程における一つの補助手段であるということを,ご理解ください.
掲載(更新)日時:2020年2月21日18時30分
3.【CT室における感染防御】
3月18日発表のJapanese Journal of Radiologyの解説
日本医学放射線学会のオフィシャルジャーナルであるJapanese Journal of Radiologyにコロナウイルス肺炎撮影時の感染防御にむけたCT室の運用がSpecial reportとして出版されました。
題名:COVID-19 Pneumonia: Infection Control Protocol Inside Computed Tomography Suites
出典: https://link.springer.com/article/10.1007/s11604-020-00948-y
論旨:横浜市立大学でのCT室における感染防御のプロトコルが示されています。
- 必要な個人防護具(Personal Protective Equipment:PPE)とその着脱のタイムフロー
- 放射線技師二名の分業体制により迅速かつ最小の汚染域でのスキャンを行うプロトコル
解説:コロナウイルス肺炎の診断および病態の評価にCTは有用なツールです。しかし、感染対策が不十分なままコロナウイルス肺炎のCTスキャンを行うと院内感染を惹起することになります。CTスキャンを受けるような基礎疾患を有する患者さんは重症肺炎に陥りやすいことを踏まえ、十分な感染防御策が必要です。
従って
- コロナウイルス肺炎の評価を行うにあたってCT室は放射線科、感染防御、救急の専門医を有している施設で管理することが望まれる
上記の点に留意し、「CT室から新しいCOVID-19肺炎患者さんを作らない」体制を整えてCTを有効利用することが重要です。
掲載(更新)日時:2020年3月19日12時00分
4.【ダイアモンドプリンセス号におけるCOVID-19症例のCT所見】
3月18日発表のRadiology: Cardiothoracic Imagingの解説
ダイアモンドプリンセス号におけるクラスター集団のうち、PCR陽性患者のCT所見に関する論文が出版されました。
題名:Chest CT Findings in Cases from the Cruise Ship “Diamond Princess” with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)
出典: https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/ryct.2020200110
論旨:PCR陽性のCOVID-19症例では、無症状例でも約半数にすりガラス影優位の肺炎の所見がみられる。
解説:これは,ダイアモンドプリンセス号におけるクラスター集団のうち、自衛隊中央病院に搬送され、PCR陽性のCOVID-19症例に対してCTが施行された112名の患者に関する論文です。以下に結果のまとめを示します。
- 無症状例が82例(73%)、有症状例が30例(27%)
- 無症状例の44例(54%)、有症状例の24例(80%)に肺炎の所見あり
- 無症状例の80%がすりガラス影優位、有症状例の38%がコンソリデーション優位
- 無症状例は有症状例よりも陰影の範囲が狭い
これまでの中国からの論文の多くが、有症状例のCT所見に関する報告でしたが、本論文は、クラスター集団における無症状例を有症状例と比較検討したもので、大変貴重な報告だと思います。PCR陽性例に限った検討ですが、無症状例の約半数、有症状例でも20%でCTで異常所見がみられなかったことより、現状では感染対策の基本がPCR検査の結果によること、CT検査室の感染拡散のリスク等も考慮すると、クラスター集団に対するスクリーニングとしてのCT検査の使用は慎重を期すべきと考えられます。
掲載(更新)日時:2020年3月23日15時00分