【提言】医療の質と安全を担保するための読影量について

医療の質と安全を保つため、放射線診断専門医1人あたりの読影件数は、検査管理やカンファレンス、コンサルティングなどの業務を除いた、読影に専念する時間1時間あたり4件以内とすべきである。よりよい画像診断のために、十分な画像診断医数を確保するべきである。

注:ここでいう読影件数の対象はCT、MRI、PET-CT/MRIである

解説

画像診断とは、単に撮像されたCT、MRI画像などの画像診断報告書を作成することではない。検査の適応を考え、疾患や患者背景に応じて被ばくなどの侵襲と診断能を考慮して最適化した撮像法を指示・管理し、撮像された画像から所見を拾い上げ、臨床情報と合わせて画像を解釈し、患者に適切な診療が行われるような情報を画像診断報告書として依頼医、患者へ提供する行為である。報告書は診療に必要なタイミングで提供される必要があり、また報告書の内容が正しく依頼医に伝わり患者の診療に反映されているか、という点にも配慮する必要がある。

外保連試案による読影に必要な平均所要時間は、1件あたり14.6分である。これに検査適応決定や撮像方法の指示、画像診断報告書の管理を含めると、1時間に4件以上の読影では質の担保が困難である。大学病院や研修指定施設などの教育施設では、教育・指導もありさらに読影件数は大きく低下する。

読影時間の短縮や過剰な読影数による弊害については、これまでも幾多の報告がある。また画像診断報告書の確認不足については社会問題にもなっており、診療科への迅速な画像診断報告の要求も高まっている

CT・MRI検査は2015年から2019年に18%増加、画像診断管理加算の算定数は21%増加しているのに対し、放射線診断専門医数はわずか10%の増加にとどまっている。さらにCTの多列化に伴い、1検査あたりで撮像される画像数は飛躍的に増加し、件数の増加以上に読影画像量が著増している。その上、放射線科医数あたりの年間CT、MRI検査数は、欧米先進国と比べて3〜4倍といわれ、本邦の放射線科医は欧米の3倍の検査量に対峙している。一方で、画像診断管理加算の要件を満たすため読影時間は圧縮され、質の担保された画像診断をさらに困難としている

このような環境の中でも、重要な所見、想定外の所見を含む画像診断報告書の内容が依頼医に正しく伝わっているか、追跡・確認する事は医療安全上ますます重要となっている。画像診断報告書の未読の確認のみならず、依頼科と放射線科医とが定期的なカンファレンスやコンサルテーションを行うことも診療の質の向上、医療安全の観点から、極めて重要な放射線科医の業務である

以上のように、画像診断という医行為は、画像診断報告書の作成以外にも多くの業務を含んでいる。人口あたりのCT検査件数が英国の3倍、ドイツの1.8倍である本邦において、医療の質と安全を担保するためには、各施設での画像診断検査数に見合った十分な人数の画像診断医を確保することが当然の責務だと考えられる。

脚注

  1.  外保連試案1)では検査プロトコル別に必要な読影時間が示されており、がん診療連携拠点病院が公表している現況報告書におけるプロトコル別検査比率に基づき計算した。
  2. 通常の速度での読影では見逃し率が10%であったものが、急いだ読影を行うと27%に上昇した2)、脳神経CT、MRIの読影エラーが生じた場合の1時間あたりの読影件数は平均6件と、エラーのなかった場合の5件より有意に多かった3)などの報告がある。
  3. 日本医療機能評価機構の医療安全情報4, 5)として繰り返し注意喚起がなされており、画像診断報告書の確認不足は、画像検査後に依頼医が報告書を待たずに自身で画像を判断してしまうことに原因があるとされる。
  4. 厚生労働省の社会医療診療行為別統計は統計方法が2015年に変更されており、新型コロナ肺炎影響前の2019年までの変化をみた。CT検査数は2015年6月の1,688,363回から2019年6月の2,057,175回へ22%増加、MRIは1,017,395回から1,136,381回へ12%増加しているが6)、放射線診断専門医数の増加は5,251名から5,802名への10%にとどまる。
  5. 2010年から2017年の間で、CT・MRIの30%弱の件数増加に対して、撮像画像枚数は2倍になったとの調査がある7)
  6. 2004年時点で放射線科医数あたりの年間CT、MRI検査数がOECD各国の平均の4.3倍であった本邦の状況は8)、2015年でも欧米先進国と比べて3〜4倍9)と改善はない。人口あたりの放射線科医数は米国の1/3、日本とほぼ同等のドイツでは放射線科医あたりのCT、MRI件数は1/3である。
  7. 診療報酬上、画像診断管理加算算定の要件として翌診療日までに8割以上の報告書の作成が求められている。このような読影時間圧縮の危険性は、日本学術会議臨床医学委員会放射線・臨床検査分科会が2019年に発表した「CT 検査による 画像診断情報の活用に向けた提言」の中でも指摘されている10)
  8. 外科医が直接放射線科医とミーティングの機会を持つと、外科医の診断に対する印象が劇的に変化し、より多くの場合で治療方針の変更につながったとの報告ある11)。この研究においては外科医が受けた画像診断結果の印象に、書面とミーティングとで11%で重大な乖離があった、すなわち放射線科医が依頼医と直接会う時間を共有することの重要性が示されている。

 

参考文献

1) 第3編 生体検査試案 第2部 放射線画像検査試案(第1.5版), 外保連試案 2022, 医学通信社, 2021

2) E. Sokolovskaya, et al: The Effect of Faster Reporting Speed for Imaging Studies on the Number of Misses and Interpretation Errors: A Pilot Study. J Am Coll Radiol 12: 683-688, 2015

3)S. H. Patel, et al: Risk Factors for Perceptual-versus-Interpretative Errors in Diagnostic Neuroradiology. AJNR Am J Neuroradiol 40: 1252-1256, 2019

4) 公益財団法人日本医療機能評価機構. 医療安全情報No63画像診断報告書の 確認不足.
    [cited] Available from: https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_63.pdf. 2012

5) 公益財団法人日本医療機能評価機構. 医療安全情報No138画像診断報告書の 確認不足(第2報).
   [cited] Available from: https://www.med-safe.jp/pdf/med-safe_138.pdf. 2018

6) 政府統計の総合窓口(e-Stat)」、調査項目を調べる-社会医療診療行為別統計(厚生労働省).

7) 放射線科 働き方改革アンケート結果2018と提言. JCRニュース 226号 別冊, 2018

8)  Y. Nakajima, et al: Radiologist supply and workload: international comparison–Working Group of Japanese College of Radiology. Radiat Med 26: 455-465, 2008

9) K. K. Kumamaru, et al: Global and Japanese regional variations in radiologist potential workload for computed tomography and magnetic resonance imaging examinations. Jpn J Radiol 36: 273-281, 2018

10) 日本学術会議  臨床医学委員会 放射線・臨床検査分科会. CT 検査による画像診断情報の活用 に向けた提言.
      [cited] Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000575724.pdf. 2019

11)E. C. Dickerson, et al: In-Person Communication Between Radiologists and Acute Care Surgeons Leads to Significant Alterations in Surgical Decision Making. J Am Coll Radiol 13: 943-949, 2016

 

以上

2022年2月16日
日本放射線科専門医会・医会
理事会
医療政策研究委員会